1. HOME
  2. ブログ
  3. 山焼き準備・茅刈り体験レポート「現代に適した草原へ」

山焼き準備・茅刈り体験レポート「現代に適した草原へ」

人々が暮らしの中で利用することで形成され、多様な動植物が生息するようになった蒜山の草原。

かつては地元の人々が利用することで維持されてきた草原ですが、近年は蒜山自然再生協議会やボランティアによって維持されています。

ボランティアを募って大々的に行われる活動は、年に3回。

春の山焼き、初夏の草刈り、そして晩秋の山焼き準備・茅刈り体験です。

私は今年1年、蒜山自然再生協議会の千布さんにお誘いいただき、草原再生のボランティア活動に参加しています。

最初は「アウトドアの経験が少ないけど大丈夫かな?」と不安に感じていましたが、思い切って参加してみると、これが結構おもしろい。

作業がおもしろいのはもちろんのこと、四季折々の草原の変化が、時の流れを忘れるほど美しい。

草原に行く度に「ずっと見ていたいな」と感じるほどです。

さて、今回は1年の締めくくりである「山焼き準備と茅刈り体験」の様子をお届けします。

イベントの様子を見て「来年の活動に参加してみよう!」と感じていただけると幸いです。

<過去の体験レポートはこちら>
美しい草原は大迫力の炎によって創られる!蒜山高原の山焼きボランティア体験レポート
イベントレポート|初夏の草原ワークアウト2024

イベントの概要

今回のイベント「山焼き準備と茅刈り体験」の概要は以下のとおりです。

<イベント概要>
・日時:2024年11月23日(土)10:00〜16:00
・参加費:大人(中学生以上)1,000円、子ども500円 ※保険代および昼食代として
・定員:50名程度
・申込方法:WebフォームまたはE-mail

<持ち物>
飲み物、雨カッパ、タオル、帽子、軍手、応急手当用品、汚れてもよい服装(⾧袖・⾧袖ズボン)、急斜面の上り下りに適したしっかりした靴(登山靴・⾧靴、地下足袋など。あればスパイク付きのものが良い。スニーカーは不適)

<スケジュール>
8:00 岡山駅から出発する貸し切りバスに乗車(希望者のみ)
10:00 集合・開会(受付開始9:30より)
10:30~ 山焼き準備作業(防火帯草寄せ)
12:00~ 昼食
13:00~ 「蒜山茅刈出荷組合」の指導で茅刈り体験
16:00 閉会・解散・岡山駅行きバス出発
18:00 岡山駅にバスが到着

蒜山までの交通手段がない方も参加できるように、岡山駅からの貸切バスも運行されていました。

私は2週間ほど前に申し込み、余裕を持って雨ガッパ、スパイクなどの必要物品を準備しました。

いつもの「チェーン脱着場」に集合

今回も、集合場所は蒜山上徳山のチェーン脱着場。

私は集合時間の10分ほど前に到着し、受付を済ませ、必要物品を準備しました。

気温5℃とかなり冷え込んでいたので、ネックウォーマーなどの防寒対策も入念に行いました。

早朝は雨が降っていたようですが、開始時刻になると青空も見えるように。

清々しい空気の中、今日の作業の説明が行われ、徒歩で現場へ向かいました。

山焼き準備:防火帯の草寄せ

午前中は山焼きの準備として、防火帯の草寄せを行いました。

防火帯とは、山焼きの火が燃え広がらないように草原と樹林など燃やしたくないものとの間に設けられる、帯状の領域のことです。

蒜山の草原では、枯れ草や枯れ木などの燃えやすいものを取り除くことで、防火帯をつくります。

今回防火帯の草寄せを行ったのは、草原に入ってすぐの斜面。

傾斜の緩い斜面担当チーム・傾斜の急な斜面担当チームの2チームに分かれ、作業を行いました。

私は傾斜の急な斜面担当チームでした。

はしごを使って急斜面を登り、持ち場へ。

スパイクで斜面に張り付きながら、作業を始めます。

作業の進め方は以下のとおり。

①それぞれが熊手orフォークを持つ
②熊手3〜4名、フォーク1名が1班となる
③順に草を寄せていく

実際の様子は上の写真のとおりです。

写真の右から左へ、刈った草を寄せていきます。

草は事前に、蒜山自然再生協議会の方々が刈ってくれたようです。

急斜面で動き辛いため、なるべく持ち場から動かず、バトンを渡すように自分の隣の人へと草を寄せていきます。

最後はフォークを持った人が、集まった草を防火帯の外まで持っていきます。

フォークでの作業は斜面横方向への移動が多いため、経験豊富な方が担当していました。

草を投げる時に、ファサーっと偏りなく投げると良いそうです。

このような作業を、斜面の下から上に向かってやっていきます。

転がり落ちてしまいそうな急斜面でしたが、スパイクのおかげで、慣れてくるとあまり気にせず作業できました。

また、ずっと動いているおかげで体が温まり、途中からは暑く感じるほどでした。

時々休憩をとりながら、ひたすら草を右から左に寄せていく。

時間の流れを忘れるほど没頭しており、気づけば作業開始から1時間が経過していました。

ふと、斜面の下を振り返ってみるとこのとおり。

草のある場所と草のない場所がはっきりと分かれ、防火帯が出来上がっていることがわかります。

図示すると、赤線の内側の領域が防火帯です。

この空間があることで、山焼きの火が燃え広がることを防げるのです。

最後は全員で斜面の上の草寄せ。

傾斜が緩くなったことで、作業は非常に楽でした。

最後にみんなで集合写真を撮って、防火帯の草寄せは終了。

ちなみに、今回私たちボランティアが行った草寄せは、山焼きエリアのほんの一部。

あとのエリアは地元の達人に頼むようです。

33名でやった何倍もの面積をたった数人でやるなんて…。

匠の技はすごい!

お昼ごはん

チェーン脱着場に戻ると、「ひるぜん焼そば好いとん会」の方が、ひるぜん焼きそばを準備してくれていました!

味噌だれの香りが食欲をそそる。

出来立て熱々で、作業終わりにはこれ以上ない一品です!

美味しすぎておかわりしちゃいました。

茅刈り体験

午後からは茅刈り体験を行いました。

「茅」とは、イネ科やカヤツリグサ科の多年草の総称で、ススキやチガヤ、スゲなどを指します。

かつては茅葺き屋根などを中心に利用されていましたが、現代では利用されなくなってしまった”里山の資源”です。

蒜山でも同様に茅の利用がほとんど途絶えてしまいましたが、草原再生を進める中で再度収穫できるようになり、現代社会のニーズに合わせた利用方法が模索されるようになりました。

現在では若手農家を中心としたグループ「蒜山茅刈出荷組合」が設立され、農閑期の副業として、茅を収穫して、茅葺職人などに販売しているようです。

蒜山の茅は、山焼きをすることでススキの新芽が伸びる頃には土に障害物が無く、茎が通直なため、茅葺職人から「葺く際に使いやすく質が良い」と、お墨付きを貰える程だそうです。

ちなみに、蒜山では山焼きをすることでススキが真っ直ぐ育つため、茅葺職人から「葺く際に使いやすく質が良い」と、お墨付きを貰える程だそうです。

さて、茅刈り体験は、山焼き草原の中心に近い場所で行われました。

まずは茅刈り職人から、実際の茅の利用方法として、茅葺き屋根の工法を説明してもらいました。

現代では住宅需要は減っているものの、寺社仏閣や、自治体が文化財に指定する古民家などで、茅葺職人の技が求められているようです。

また、GREENable HIRUZENのサイクリングセンターのように、建物の壁や天井などの内装材として使われる際は、茅の断面の美しさを活かした使い方がされているようです。

ちなみに、GREENable HIRUZENのサイクリングセンターには、蒜山産の茅が約1,350束使用されています!

続いて蒜山茅刈出荷組合の方による、茅刈りのレクチャー。

茅刈りの手順は以下のとおり。


①鎌を使って茅を刈る。鎌で足が切れないように、(右利きの場合は)左足を前にして刈る。茅の中でも地面に近い茎ほど硬くて重宝されるため、なるべく地面に近いところで刈る。


②茅に混ざっている余計な草木を取り除く


③ある程度刈れたら、茅を地面にトントンと立てて、根本を揃える(茅を利用しやすくするため)


④茅の結束器(通称「ケイコちゃん」)に茅を置く


⑤結束器がいっぱいになったら茅を束ねる


⑥再び根本を揃えて完成

デモンストレーションとして蒜山茅刈出荷組合の方4名で1束作っていましたが、慣れた方でも1束作るのには結構時間がかかる様子でした。

1人で1束作ろうと思うと、かなり大変そうです。

さて、私たちもさっそく実践してみることに!

「稲刈りのスケール大きいバージョンかな?」と思って、写真のような長い鎌を持ち、トライしてみました。

結論、稲刈りより全然大変。

稲と違って茅は不規則に生えており、真っ直ぐ生えているものもあれば途中で折れているものもあるため、どの茅を刈れば良いか、最初は迷いました。

茎も硬いので、力を込めてザクっと刈らないと、歯が立たないほど。

加えて2m近くの長さがあるため、刈った後に余計な草木を取り除く作業や、根本を揃える作業も一苦労でした。

とはいえ、総勢32名の勢いはすごいこと。

茅はあっという間に刈られていき、茅が生い茂っていた場所がどんどん開拓されていきました。

私も負けじと、茅をひたすら刈る。

一気にたくさんの茅を刈ろうとすると大変なので、慣れないうちは少ない量を刈るようにしました。

何度も何度もやっていると、次第に「鎌を引く時は一思いに引く」「無理なく抱えられる量を把握する」などのコツがわかってきました。

ある程度茅を刈ったら、結束器に刈った茅を乗せます。

結束器がいっぱいになったら、写真のように茅を束ねて、紐で結んでいきます。

紐を結ぶのは全部で3箇所。

束の上・真ん中・下です。

乾燥して茅の水分がなくなってしまうと束がバラバラになってしまうため、紐はかなりキツめに結ばなければなりません。

蒜山茅刈出荷組合の指導のもと、1人ひとり、作業を体験していきました。

あっという間に1時間が経過し、出来上がった茅は41束!

思った以上に難しい作業でしたが、普段の生活では体験することのできない、貴重な時間でした。

ちなみに、茅束の出荷規格や収穫量は以下の通り。

熟練者になると、1日で20束も収穫できてしまうようです!

私たちボランティアは32名で41束でしたが、これは熟練者2人の1日分。

現場でも体感しましたが、熟練者の技の精度とスピードは驚異的です。

【茅束の出荷規格・収穫量】
・高さ:2m~2.2m程度
・直径20cm
・出荷時の値段:1200円(税込)/束
・熟練者は20束/日ほど収穫可能
・1シーズン最大収穫量:746束

集合写真を撮って終了。

参加者がいる場所は、1時間前まで茅がびっしり生えていた場所です。
たった1時間でかなり開拓が進みました。

全3回のボランティア活動に参加して

4月の山焼き、6月の草刈り、11月の山焼き準備・茅刈り体験。
1年のうち、たった3回ではありますが、蒜山高原の草原再生活動に参加しました。

思えば、私が最初に蒜山の草原を訪れたのは2021年10月。
この時は背の低い草がどこまでも広がっていて、「岡山県にこんな美しい風景があるのか」と、驚きを感じていました。

草原の再生活動を知ったのはその後。
大学で学んでいたので、頭の中では「草原は人の手が入らないと維持できない」と理解していました。

しかし、いざ現場での活動を体験してみると、頭で理解していることと実践することは「雲泥の差がある」と感じました。

果てしなく広がる自然を前にすると、人はちっぽけなものです。

一昔前までは日常的に草原を利用していたとはいえ、これほどまで広い面積を利用していたのは驚くべきことです。

それくらい、現代はライフスタイルや価値観が変わったということなのでしょう。

山焼きや茅刈りだけではありませんが、生活文化の継承や環境保全の取り組みは、一度途絶えてしまうと再現は難しくなります。

その意義を考え、昔に戻るのではなく、現代社会に適した形を模索しながら活動を続けていくことの大切さを、この1年で感じました。

蒜山の草原再生活動に、終わりはありません。

この活動が5年、10年と続くことで、少しずつ、草原は多様性を取り戻していくはず。
毎年参加すると、四季折々の変化だけでなく、植生の変化も楽しめるでしょう。

来年も、同様の活動が実施されます。

ぜひみなさんも活動に参加して、大自然の中で体を動かす爽快感を味わうとともに、はるか昔から紡がれてきた雄大な風景に癒されてください。

また、ひるぜん焼きそばをはじめとする蒜山の美味しいグルメや、蒜山・湯原の温泉など、真庭の魅力を味わってみてください。

この1年のレポートを読んで、「思い切って活動に行ってみよう!」と思っていただけると幸いです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

◆ライタープロフィール:藤本一志
真庭市交流定住センターのセンター長として真庭市への移住サポートをしながら、環境に関する出前講座、Webライティング、農業などに取り組む。真庭市の暮らしや移住、観光情報を発信するブログ「真庭通信」を運営中。

ブログ

ブログ一覧