【野球好き以外閲覧厳禁】「やまびこスタジアム」のポテンシャルがスゴかった!
岡山県真庭市にある真庭やまびこスタジアム。
通称「やまびこスタジアム」は、2015年に開催された岡山国体の軟式野球競技一般Aの会場として使われた、全日本軟式野球連盟第一種公認グラウンドで、西日本初の全面人工芝で覆われたスタジアムです。
実はこのスタジアム、調べてみるととんでもないポテンシャルがあることがわかりました!
今回取材したのはこの2人。
◆酒井悠(さかいゆう)
真庭市地域おこし協力隊。2022年5月に東京から移住。小学生時代から野球に熱中し、移住前も草野球で汗を流す生活。真庭市内で草野球が出来る環境を模索中。好きな球団は横浜DeNAベイスターズ。NEW ERA(ニューエラ)のキャップを被ると落ち着くことから、週の半分以上はキャップを愛用。
◆藤本一志(ふじもとかずし)
2020年3月に岡山市から真庭市に移住した「移住コンシェルジュ」。その傍ら、ライター・ブロガー・米農家としても活動中。高校野球からプロ野球まで幅広く野球情報をチェック。横浜DeNAベイスターズファン。真庭市内随一のMLB(メジャーリーグ)好きとしても知られる。好きな球団はシカゴ・カブス。
野球好きとして意気投合した2人も驚くお話が聞けました。
超大作になりますが、ぜひ最後までご覧ください。
コンテンツ
やまびこスタジアムは”ドーム級”の広さ
まずは、やまびこスタジアムの概要(いわゆる球場の広さなど)をご紹介します。
本塁両翼間:100m(両翼)
本塁センター間:122m(中堅)
収容人数:メイン1,200人/外野5,000人
総面積:約130,000平方メートル
グラウンド面積:約20,000平方メートル
内野・外野:ロングパイル人工芝
スコアボード:電光得点・判定表示板
▲真庭やまびこスタジアム【出典:真庭やまびこスタジアム(真庭市)】
球場の広さ(両翼と中堅)という点でプロ野球の本拠地と比較すると、札幌ドーム(北海道日本ハムファイターズ)、ベルーナドーム(埼玉西武ライオンズ)、東京ドーム(読売ジャイアンツ)、バンテリンドーム ナゴヤ(中日ドラゴンズ)、京セラドーム大阪(オリックス・バファローズ)、福岡PayPayドーム(福岡ソフトバンクホークス)というドーム球場と肩を並べるサイズです。
※これらのドーム球場は全て両翼100m、中堅122mです。
※球場名、チーム名は2022年8月現在の情報です。
いわゆる6大ドームです。
あのアーティストが「ドームツアー」と銘打ってツアー使用する6大ドームです!
また、やまびこスタジアムは岡山の田舎町にひっそりと佇んでいますが、実は横浜DeNAベイスターズや東北楽天ゴールデンイーグルスといったプロ野球チーム、大阪桐蔭高校の練習場など、高校野球の強豪のグラウンドを手掛けている会社が施工したという事実がわかりました。
真庭市内でも有名な野球好きである筆者2人が、その事実を確かめるべく、隣町の津山市にオフィスを構える日本フィールドシステム株式会社の中国支店の藤江孝史支店長にお話を伺いました。
岡山国体のための「やまびこスタジアム」
▲日本フィールドシステム株式会社
藤江)やまびこスタジアムの場合は、「真庭市(当時は久世町)の軟式野球の会場を」ということで、国体の3、4年前ぐらいから構想がありました。外物(そともの)は普通の野球場としてありながら、一般的な構造(内野が黒土、外野が芝生)で計画されていたと聞いています。
当時の国体準備室の室長さんが「どうせ造るなら岡山にないもの」という大きな夢をお持ちでした。当時外野の芝が人工芝という流れはボチボチある状況ではあったので、外野は人工芝にしようということで工事は発注されました。
弊社(日本フィールドシステム)の立ち位置で言いますと、スタンド関係は建築関係のゼネコンが先に工事をして、中の部分(グラウンドなど、実際に野球をプレーするスペース)を担当させてもらいました。
話が進んでいくうちに「内野も人工芝にしてみてはどうだろうか」という話が出まして、最終的には全面人工芝ということになりました。
ある意味、国体準備室(施主側)と受注者の息が合った、想いが合致した結晶体とも言えますね。
大体スポーツ施設は施主側が「(サッカー場や野球場を)何か造りたいね」というところから始まります。「どのレベルにしますか?」という提案を私たちがさせてもらい、「テニスコートは人工芝にしたいよね」とか、「アンツーカーのような土のコートにしたいんだよね」という要望をお聞きし、立地や気候の条件を考慮して「じゃあこれで設計しましょう」という話になり、最終的に物件にするという流れが多いです。
大切にしていることは、施主さんの意図(本筋)を知ることですね。
漠然と「これを造りたい」と思われているものを、どの規模、スペック、規格、大きさにするかを探り、いかに地域に合った施設にするかを考えます。
例えば、過疎化が進んでいる地域に東京ドームのような規模をドーンと作っても、誰も管理が出来なくなってしまいます。そのため、管理する人たちにも負担の少ない規模を最大公約数的に考えるのが難しいところです。
その点は、どこの都道府県、市町村でも同じことが言えると思います。
藤江)ほとんど決まっている場合もあれば、これから決めるという場合もあります。大体は市町村や学校側が、ある程度の場所を想定していますが、その場所は明かしてくれません。ガッツリはなかなか言ってくれないです(笑)
「両翼は~mぐらいの規模の球場を造ったら(費用は)いくらする?」というように聞かれたりします。
お声掛けがあった時点で計画はある訳なので、詳細を教えていただけるのですが、「ひょっとしてスタンドも造ったりしますか?」というようにヒアリングをし、例えば「地域のスポーツ少年団が使う規模でいいんだよ」という情報を深掘りしていきます。
そういった場合は大体どの土地に造るかの構想はあって、おもむろに図面を出してこられて「この土地に入るかなぁ」という話になることもあります。
野球場、サッカー場、テニスコートのサイズをご存知の施主の方も多いので、地図にはめ込んで持ってくる方もいます。
「東西南北を考えると、こちらの向きの方が良いのではないでしょうかね。」という話などもしながらですが、最終的には予算が大事になってきます。
外物を削って駐車場に何台車を置けるようにするか、付帯する設備(更衣室やシャワーやトイレ)をどのようにするか、そういったことを織り込みながら、決めていきます。
※仮説の設備でも対応できるので。
藤江)施主さんの考え方次第ですが、自治体から1社に発注した方が、窓口がひとつなので楽だと思います。ただ、やまびこスタジアムの場合、国体で使いたいということもあり「野球場」ではなく「グラウンド」として見てくれていました。
それであれば、スポーツ施設専門の施工会社(=日本フィールドシステム)にお願いした方が、より専門的な視点で造ってくれるであろう、ということもあり、外物はゼネコン、グラウンドは弊社ということになりました。
学校施設の場合は、校舎を作るゼネコンがグラウンドも作り、その下請けとして入る場合もあります。
東北楽天ゴールデンイーグルスの本拠地の場合は、全部をゼネコンが受注していたけれども、最終的に人工芝を弊社で受けました。
▲楽天生命パーク宮城【出典:施工実績(日本フィールドシステム)】
藤江)プロ野球の本拠地(フランチャイズ球場)は、大体ハコモノから作るので、大手のゼネコンが受けられます。
藤江)弊社の担当部分は9ヶ月ぐらいだったと思います。2005年の初めに竣工検査を行いました。確かスタジアムが出来上がった際に久世町のスポーツ少年団が試合をし、その後、久世町役場とグループ会社の日本植生との交流試合も行われたと記憶しています。
球場はどうやって造られるのか
藤江)工法として、外物は出来ている状態で、その後、弊社が入るパターンがほとんどです。
野球場を作る場合、整地はされているので、大体平坦にはなっています。
野球場は競技施設の中でも勾配(水が流れるための傾斜)が入り乱れていまして、それに基づいて整地、もしくは舗装していくんです。
そうして下地を作った後に、人工芝や荷物を搬入し、実際に敷設します。
その後、ベース周り(一塁、二塁、三塁、本塁)に土を入れて整地し、ベースやプレートを設置して終了、というのが一連の流れとなります。
ざっとですが、人工芝を敷き詰めるのに、1日平均1,000平方メートルぐらい作業が可能です。
例えばサッカー場は約10,000平方メートルあるので、10日ぐらいで終わります。
野球場の場合には、外野7,000平方メートル、内野3,000平方メートルなので同じく約10日ぐらい掛かるのですが、ウォーニングゾーンをアンツーカー色にしたり、そもそも人工芝が真四角ではない部分もあり、更に土の部分もあるので、それ以上に掛かります。
また、野球場は球場名を入れることが多く、そちらに時間が掛かります。
▲球場名が入った事例(横須賀スタジアム)【出典:施工実績(日本フィールドシステム)】
藤江)人工芝の上からペイントという方法もあるのですが、大体は文字を入れ込むパターンが多いですね。
藤江)ああいった場合、敷設する場所は球場のどこか決まっています。大会や試合もこの球場で実施することも決まっています。今年のこの大会はこの球場でやる、というのが決まっていますよね。ですので、その位置に合わせて事前に準備してあります。そのロゴの場所だけ入れ替えることで対応しています。
▲人工芝の加工例
藤江)スポンサー名が変わる場合にも張り替えは必要ですが、球場によってそのスペースも規定されているので、その部分だけ入れ替えることで対応しています。
大学のように、ほとんど校名が変わらないケースであれば、人工芝を貼った後に、その文字のカタチにくり抜いて、違う色の人工芝を張ることもあります。
藤江)最近は、デザイン的に緻密なものもありますよね。そういったものは縫製技術が進んできたので、コンピューターでデータを読み込ませて、ミシンで編んでいると思います。
藤江)大会規模にもよると思いますが、球場を持たれている大会主催者のエゴであったりもするでしょうね。例えばオリンピックをする時でも、何もない球場よりは、大会ロゴやマスコットをあしらうのは野球場のみならず、体育館などでもあると思います。
フランチャイズ球場であれば、テレビ映りというのが一番だと思います。
スポンサーの存在もあって、例えば高校野球の甲子園大会(全国高等学校野球選手権大会)であれば、壁面のスポンサーロゴは隠しますしね。
球場の聖地「マウンド」に懸ける想い
藤江)一番嬉しい質問ですね。何回か経験していただければ、アルバイトとしては使えます。
酒井・藤本)??
藤江)やっぱりマウンドの大きさと傾斜にはルールがあるんです。それを最初は見ていただいて、こんなカタチになっているんだなと覚えていただくので、カタチのイメージは掴めると思います。
それから、実際にトンボを持って2、3回やってもらえれば、作業は出来ると思います。全部大きさも決まっているので、カタチは作れると思うんです。
唐突ですが、マウンドの形状はざっとどのようなものだと思っていますか?
藤江)お椀まではいかないけど、それの優しい感じというイメージですかね。
藤江)大体の方はそう思われているんですけど、実はマウンドには平坦な部分があるんです。
藤江)マウンドにはピッチャースプレートがあると思うんですが、その部分が平坦になっていて、プレート自体もマウンドの中心ではなく二塁ベース寄りなっています。ですので、マウンドの後ろの方が勾配はきついです。
(おもむろに資料を取り出し)
▲マウンドの規定
藤江)これが本塁側です。円形は大正解です。
酒井・藤本)笑
藤江)プレートは少し後ろ(二塁側)にあり、ここが平坦な部分です。
藤江)マウンドの土の質は球場によって違いますね。高さ自体は、昔は約30cmでした。本塁と他のベースは高さが一緒なんです。本塁の高さを基準にマウンドの高さは254mmと決まっています。
ですので、まずは254mmの高さをしっかり保っているかで、そこの野球場の管理に懸けている想いがわかりますね。
ピッチャースプレートを据えるので254mmという高さはほぼ変わらないのですが、よく地方の球場に行くと、プレートだけがボコんと盛り上がっていることがありますよね。明らかにマウンドが痩せているな、と感じることがあるのです。マウンドは山になっているので、土が足りていないと流れていくんですよね。ですので、土を補充してマウンドのカタチを作っていくのが本来の姿なんです。
先程言ったような状態になっていたら、相当土を集めて成形しないと元には戻らないですね。
ただ、ドーム球場の場合、イベントなどあって邪魔になってしまうので、昇降式になっています。そういったところは、本拠地のエースの方の意向の強い仕様のマウンドになっていると聞いたことがあります。固さも含めて。
阪神甲子園球場やMAZDA zoom-zoomスタジアム広島、楽天生命パーク宮城など、屋外の野球場はこのマウンドの形状が保たれていますが、昇降式のドーム球場などは形状が若干変わったりしてしまうこともあります。
本来で言うと、マウンドの淵はホームベースより4.5mm高くなっているんですが、昇降式だとこれが維持出来ないんです。多少の誤差はあります。
ですが、それぐらいの誤差は認められているスポーツでもあります。球場のルールということで。
藤江)そうですね。先にプレートの場所を固めて、254mmの高さと位置を決めて、そこから整備していくことが多いですね。周りから固めてということではなく、まずプレートを固めて平坦な場所を作り、その後に削っていく作業を職人さんがやっていきます。
私も野球経験者なのですが、プレーしていた頃もマウンドのカタチが気になってしまってました。ずっとひとりで整備をしていました(笑)
本格的にマウンドのカタチを知ったのも、この会社に入社してからですね。
大体のカタチはわかっていましたけれども、こんなに細かく規定がされていると知ったのはこの仕事を始めてからですね。
藤江)ほとんどの方が知っておられないですよ。野球関係者でも知らない場合があったりします。グラウンド整備をされている監督さんですと、体に染みついているのもあって、トンボの幅などで覚えておられる方もいますね。
ですので、平坦な場所を作ってあるかどうかで、マウンドのことをご存知なのかがわかりますね。
藤江)私は内野手でした。中学生の時のお世話係の先輩が投手をしていて、「藤江、今日からマウンド係な」と言われた時があり、その時からマウンドを整地するという部分の想いは強かったですね。当時は見よう見まねでやっていましたが、この会社に入ってしっかりと数字に基づいていると知りました。
甲子園に行きたければ日本フィールドシステムへ?
藤江)県立などの公立高校は市町村や県の発注になるので、直接の営業はあまり出来ないんです。学校の予算で黒土を買ってもらうなどのことはしてもらえます。
逆に私立の高校になると、校舎や施設関係の営繕をされている会社がいるので、「グラウンドを見直したいんだけど」と、そこにまず話がいきます。「ここの高校だったら、○○建設」というのは把握しているので、その会社と仲良くしておくかどうかで、大体の筋が決まりますね。
大阪桐蔭高校の場合は、地元の建設会社がありまして、そこが全面的に営繕関係をしてました。弊社の大阪の所長か支店長が懇意にしてまして、その関係で仕事をいただいた流れになります。
▲大阪桐蔭高校野球場【出典:施工実績(日本フィールドシステム)】
藤江)例えば岡山県であれば、それなりに親会社(日本植生)の会社名が浸透しているので、その流れで弊社を紹介してもらう流れもあり、県内であれば名前を知ってもらっているのもあります。
ただ、建築の大手の会社に話がいくことも多いですね。
学校関係の案件でグラウンドを作る際に下請けで入ることがあるのですが、その際に仲良くなっておいて、「グラウンドが本職なので、何かあればお声がけくださいね」という営業をして人脈を作っておくことが重要だと思います。
その関係があって、お話をいただいたこともあります。
また、地元のスポーツ用品店、地域のスポーツショップなどは学校に備品を納めているので結構情報が入ってきます。そういったところのお付き合いも大事になりますね。
藤江)ほとんど下請け(直接ではない)ですが、例えば、岡山学芸館の野球場、関西高校のブルペン、倉敷工業のブルペン、岡山商科大学附属高校のグラウンド(吉野家の横の…)
藤江)そうなんですか!その他、県外で言うと、大阪桐蔭高校もですが、中部学院大学のトレーニングセンターでしょうか。
▲朝日大学硬式野球場も施工例のひとつ【出典:施工実績(日本フィールドシステム)】
藤江)これは本当に偶然だと思うのですが、手掛けた高校が1度は甲子園に出場するんですよ。
酒井・藤本)えー、それはすごい!!
藤江)まず、大阪桐蔭高校がそうですよね。岡山学芸館もグラウンドを作った年に甲子園に出場しているんです。
藤江)頼んだら、甲子園行けるかも、みたいな雰囲気かもしれません。
我々からしても嬉しくて、熱の入り方も変わってきますしね。ただ、甲子園に行く行かないじゃなくて、グラウンド作りに関わった学校の生徒さんが「こんなにキレイなんですね」「本式はこれなんですね」と知ってもらえるだけでも嬉しいですね。
藤江)やっぱり、営業ではなくて、心配な側面もあり出向くことはありますね。例えば、ブルペンであれば「この通りにならしておけば、ブルペンのカタチになるからね」というふうに、やり方を教えに行くことはありますね。
弊社でも若い社員がルールを知って実践すると、これが正しい整備の仕方だと自信になるので、営業にもなるんですよね。
一見すると、土木関係の会社であれば整地などは出来てしまうとは思うのですが、スポーツ施設作りを生業にしている身だから気付くこともあるんです。そういう部分が強みではあると思います。
藤江)定期的に見に行っていますね。屋外の野球場で一番大変なのは、マウンドやベース周りの土が飛んでしまう点がありますね。周りがすごく固くなってしまうんです。東京ドームのようなドーム球場であれば雨の影響がないので、試合後に掃除が出来るんですけども、屋外の場合は露天に晒されているので、黒土だったりアンツーカーだったりが固まってしまうんですよね。それが人工芝の中に入ってしまい、固まって結晶化してしまうとカチンコチンになってしまうんです。それが厄介なので取り除きに行ったりしています。
最近、新しい機械を導入出来たので、それを使ってメンテナンスしましょうね、という話を真庭スポーツ振興財団に話したりしています。
話は更にディープな「人工芝の茂み」へ
藤江)いわゆるこれが野球場やサッカー場に敷かれている人工芝です。これに砂やゴムチップとかを充填してクッション性を持たせています。
▲人工芝のサンプル
藤江)人工芝になっている糸ですが、これがどこの国の製品なのか、というのが重要になっていきます。これ自体は中国産なのです。中国の方も言われていましたが、中国国内で流通させるものは中国製の糸でOK、輸出用は海外から取り寄せた糸を使わないとNGと聞いたことがあります。それぐらい違うと。
なので今はオランダなどから輸入された糸でタフトされて(毛や糸などを束ねて房にする作業)、日本で人工芝が作られていますね。
藤江)大体がポリエチレンですね。やまびこスタジアムもポリエチレンの人工芝ですね。
藤江)そうですね。
藤江)規定があるのはサッカー協会とラグビー協会だけなんです。サッカー協会ではラボテストがあり、どれだけ紫外線に耐えられるか、バウンド性がどうかなど、様々なテストをします。その上で合格すると公認品となります。
一方、野球はボールの転がり方が緻密だと思うんです。日本シリーズになると必ず投手が三塁側のバントの転がり方をチェックします。
芝の高さがありますけど、砂やゴムチップの充填の仕方でボールの転がり方が変わってきます。ちょっと固いと感じれば柔らかくすることも出来ます。
人工芝は、アスファルトを舗装した上に敷きます。その上で砂やゴムチップを撒いて仕上げていきます。
人工芝自体は、幅4m×100mの黒いシートに大量の針で縫っていきます。4m分の針がガチャンガチャンと進んでいきます。縫われていくので最初はループ状になっています。それをシャーリングしていきます。最近は縫ったその場でカットしていくパターンもあります。黒いシートに芝が抜けないように糊を塗布するんです。
藤江)縦方向の引っ張りには弱いですが、横方向の衝撃には強いですね。テレビ映りを気にされるところは、10年以内に交換しますね。見学ツアーでフィールドに入る機会があると思うのですが、実際はつぎはぎだらけですね。テレビでは分かりにくいとは思いますが。一塁ベース周りはつぎはぎだらけですね。一番使用頻度の高いゾーンなので。
藤江)一般的な球場を見るとわかりますが、人がよく踏むところがはげてしまいますね。それが天然芝か人工芝かの違いだけなんで。
藤江)変わると思いますよ。意外と知られていないのが、攻撃の時と守備の時でスパイクを履き替えているとか。
日本植生時代に社会保険の野球大会で全国に行ける機会があったのですが、日本植生も津山地域で優勝して、県大会で勝つと倉敷マスカットスタジアムで出来たりするんですよ。やっぱり人工芝って、スパイクが引っ掛かるなぁと。
ちなみに倉敷マスカットスタジアムのファールゾーン(人工芝)も弊社が担当しています。
▲倉敷マスカットスタジアム【出典:施工実績(日本フィールドシステム)】
「スポーツ施設専門の会社」というプライド
藤江)親会社の日本植生は地元密着型の企業なんです。社長も地元津山の人々とつながりがあって、「日本植生や日本フィールドシステムのことを話してもいいか?」という声をかけられるようです。私としても、弊社のことややまびこスタジアムのことをもっと知っていただきたいですね。
藤江)確かにそれはありますね。私も津山市に住んでいて、あくまで私見ですけども真庭市は結構面白いところが沢山あると思うんですよね。
ラーメン屋、焼肉屋(南大門)、ゴルフ場もあったり、昔ながらの街並みも残しつつ、祭りも盛んですし、津山と比較して真庭には一体感があると感じていますね。
スポーツは野球をやっていましたが、日本植生の緑化事業に興味があり、就職試験を受けてみようかなと思ったのが始まりです。日本植生に入社して同期と研修を受けていて「どこの営業所行くのかな」と思っていたら、「スポーツ施設事業部?」となりました。
「法面(のり面)の『の』の字もないんですけど」となりましたね(笑)
施設を造るのは目立った仕事ではないですけど、やっぱりそれがないとダメなところをやらせてもらっていますね。
野球は商売からは入っていけないですね。野球が好きであることが大切だと思います。野球好きだと、野球場やグラウンドが荒れていると悲しいですよね。「なんとか整備してあげたいな」と感じます。それから「勾配が急すぎて水や土が流れているから、もう少し均したほうがいいんじゃないですか?」などと話をして、プレートを換えたり、ホームベースを換えたりします。
このように「グラウンド整備した方がいいよ」という話から、気づいたら仕事をさせてもらったことが多いですね。
野球場という施設を作ると、ルールがひとつしかない。ルールがひとつというのは勾配のことです。
でも、うちの学校は野球部、サッカー部、陸上部が多目的に使うとなると、野球場の勾配は取れないです。みんなが平等に使えないといけないのでマウンドの高さも変わってきます。マウンドが申し訳なさそうになっていたりなどするので、敢えて高さを変えたりするなど工夫も必要です。
そういうヒントを与えてあげられるのも、スポーツ施設専門の会社だから出来る提案なのかなと思います。
藤江)毎年ですが、芝の維持管理でいうとインフルエンザと一緒で、その年その年の流行病だったり、大量発生する虫が違ったりします。それによって殺虫剤や殺菌剤を変えたりしています。
蛾の幼虫などは一晩で孵化してしまうので、芝生が茶色になってしまう。根を噛んでしまう。芝を食うのであれば、また生えてくるのですが、根が切られてしまうので衰退してしまって、一晩でダメになってしまいますね。
また、仕事の領域がスポーツ施設全般なので、「平坦に作らなければいけない」「ラインの幅が何cm以内」といった細かい規定はあります。しかし、それを作るのも生き甲斐というか、苦労ですけど、わたしたちしか出来ないというプライドも持っています。
例えばライン1本を塗るにも、人工芝だと糸が1本動いただけでプラスマイナスになってしまう。「なんでこんなに正確に出来るのかな」と思ったりしますが、それも合わせ方があります。そういったことのノウハウが面白いと思いますね。
藤江)そうですね。やっぱりそれに尽きると思いますね。弊社の社員は想いがあるかないかだと思います。
例えばハウスメーカーであれば、営業さんが「この部屋住みやすいですね」と言われたら嬉しいと思うんです。それが私たちはハウスではなく、野球場だったり、サッカー場だったりする訳です。
グラウンドを使ったときに「このマウンドは良いな」とか、それが「入口が入りやすいな」でも良いんです。やはりそのようなコメントをもらえると、やった甲斐がありますね。そこが一番大事かなと思いますね。
テニスコート1 面であろうと10面であろうと、野球場1面でもブルペン1個所であろうと、同じような気持ちで、使う人がどう思うかを一番に考えて業務に携わっていますね。
藤江)私もマスカットスタジアムの電光掲示板に自分の名前が表示された時、テンションが上がりましたね。「うわー」と思いましたもん。
藤江)当時はスマホがなかったのですが、今だったら確実に写真を撮っておくでしょうね。
酒井・藤本)貴重なお話ありがとうございました。聞いている僕たちも楽しかったです。
▲藤江支店長(右)と酒井(左)
偶然の出会いに感謝
2022年5月に真庭市に移住した筆者(酒井)ですが、とあるプロジェクトで、真庭市内の「大きな会場」を探している中で、今回のやまびこスタジアムの存在を知りました。
施設情報を調べていくと、先に述べたような実績のある会社が手掛けられていると知り、また、偶然にも隣町の津山市に会社があるという縁もあり、ぜひお話を聞いてみたいと思い今回の取材に至りました。
話を聞かせてくださった藤江支店長はとても誠実な方で、野球場をはじめとするグラウンド(スポーツ施設)造りにプライドと誇りを持っている方だと感じました。
これから想いが込められた施設が全国に造られるのだと思います。
そして、いつかやまびこスタジアムで草野球をしてみたいです。
<取材協力>
日本フィールドシステム株式会社
岡山県津山市高尾573-1
TEL:0868-281-801
<真庭やまびこスタジアム>
場所:岡山県真庭市三阪1130-4
利用時間:9:00~17:00
休館日:年末年始(12/29~1/3)
予約先:久世体育館(0867-42-1177)